日々のあれこれ

読書の記録。今月頭に芥川龍之介「二つの手紙」を読んだ。ちくま文庫の全集第一巻の末尾に収録されている。本作で芥川の精神衰弱は晩年より以前から徴候を来していたことが窺えた。作家と作品を結びつけて解釈するのは困難がつきまとう。等式化するのは「自同律の不快」(埴谷雄高)だろう。だが純文学は純粋なフィクションではない。私小説ポストモダン(「私」の不確かさと懐疑)は藤枝静男『空気頭』や後藤明生『挾み撃ち』に顕著だろう。とはいえ俗流現代思想で日本文学を分析しても胡散臭い。フロイトドゥルーズフロイトマルクスあたりの地道な研究が必要だと思う。

漫画は藤子不二雄「宇宙人」(再読)と山中美容室『ラッキーパンチ』を読んだ。前者は宇宙人との王道のファーストコンタクトもので、後者は市民漫画にSF要素と言葉遊び(回文)を組み合わせた巧みなものだった。漫画の進化を覚えた。

さきほど古井由吉「背中ばかりが暮れ残る」を読んだ。1994年の短篇。このあと古井は『夜明けの家』(初出時「死者たちの言葉」)の連載を始めた。本作はその連作短篇に先鞭をつけるようなエポックメイキングな印象を受けた。何を書くわけでもなく、ただエクリチュールがあるような小説だった。とはいえ金井美恵子やデュラスのように観念的なヌーヴォーロマンにはなっていない。シモン『路面電車』を柔らかいタッチでリライトしたような趣だろうか。下手なことはいえないが……

4月は映画を観ていない。地元では月曜日が1000円だ。『エブエブ』を今週観たかった。どうやら上映は終了するようだ。残念。

同人誌の編集と胃カメラの検査、手首の骨折などで疲労困憊である。そんな折、バンド活動に一筋の光を見た。epを発表できるといいなあ。

昨日の午前に胃の検査は終わった。診断結果は4月下旬に出る。いちおう解放されたので午後はブックオフに行った。『深夜百太郎 出口』『魚舟・獣舟』『殺人都市川崎』『新解さんの謎』を購入。

次は中上健次「日本語について」かガルシア=マルケス「この世で一番美しい水死者」が読みたい。4月13日には村上春樹『街とその不確かな壁』が発売される。今月の「文學界」の「ハンチバック」も気になるところ。がしかし「背中ばかりが暮れ残る」の一節「もう十年、二十年、世間にすっかり背を向けて、いつか無用となった書物ばかり読んで、たしかに私自身のこれまでの生活も世間からは無用の業と片づけられるか大目に見られるかされても仕方のないところだが、それにしても、一文も稼がなかったというのか。」に背中を押されもした。